谷村新司アルバムレビュー その2
〜冬木立〜
Written by 更迭辞意愚(←略してZieg)
輪舞(ロンド) 三都物語 谷村新司ベスト
― 旅コレクション ―
プライス・オブ・ラヴ サライ ITAN
君を忘れない バサラ 生成
ベスト・リクエスト ラヴソング・ベスト A面コレクション

輪舞(ロンド) 1989.12.31 ポリスター H30C-100006
01. 愚かしく美しく
02. 秋のホテル
03.
男と女に戻る時(ソロver.)
04.
アデュー巴里
05.
約束の“パレット”
06.
輪舞─ロンド─
07.
10年前
08.

09. 都に雨の降るごとく
10.
追憶
 フランス革命200年記念に合わせて発売されたアルバムです。ビデオ『輪舞』も出ており、ビデオを見てからこのアルバムを聴くとイメージが更に広がります。「愚かしく美しく」では、ビデオのみフラ語(←フランス語)ヴァージョンを聴くことができます。前作の『獅子と薔薇』とは違い、「哀愁のヨーロッパ」路線で男女の愛を歌っています。弦やホーンは控えめで、ギターのアルペジオやピアノが使われていて「はかなさ」を演出しています。全体的にシンプルなまとまり方をしており、また違った方向を模索していることが伺えます。さすがパリオペラオーケストラというだけあって、「輪舞」におけるコーラスは鳥肌モノです。
 しかし、ずっと巴里での男女の恋愛を想像して聴いていると、「都に雨の降るごとく」で裏切られます。イントロのアルペジオから何となく京都に降る雪(やはり雨よりも雪です)というイメージが浮かんできて、しかも管楽器も悲しげなフレーズを吹いています。歌詞も「都」と出てきますので舞妓さんが傘を差して歩いている情景がつい……。
 全体的には、シックな大人の恋愛という新しい「哀愁のヨーロッパ」路線を切り開いたということを評価したいと思います。

プライス・オブ・ラヴ  1990.9.8  ポリスター PSCC-1011
01. Global Theater地球劇場
02.
家族Familyu
03.
ダンディズム
04.
Dreams Come True
05.
マイ・ガール
06.
企業戦士
07.
ふたり
08.
9月のマリー─ヴィエナ讃歌─
09. Yesterday's...
10. 忘れないで
 ヨーロッパ三部作の終局をなす佳作。三部作の中ではセールス的には最もふるわなかったのですが、アルバムとしての出来はもっとも優れています。「どうせまたクラシックの音だろ」と思って聴くと裏切られますよ。実は「大人のロック」なんです。 曲は、「家族」をテーマとした10曲。たしかな技術の演奏をバックにした濃い歌唱が光るが、中でも「Global Theater」「家族」「ダンディズム」の3曲は特に聴き逃せません。何か(何か忘れた)のCMソングに採用された「Global Theater」は未来を担う子ども達へのメッセージであり、「家族」は若者が忘れがちな家族愛を真正面から取り上げた作品です。「たとえ君が犯罪者としても愛している人がいる」「忘れてはいないか 誰かを」の歌詞がさすが。「ダンディズム」は妻への愛をこれも真正面から歌い上げています。このほか、「マイ・ガール」「9月のマリー」なども高く評価できます。
「家族」をテーマにこれほど真摯に取り組んだアルバムを私は知りません。

君を忘れない 1991.10.1 ポリスター PSCC-1040
01. 君を忘れない
02.
最後のI LOVE YOU
03.
夏の二週間
04.
渚にて
05.
エキストラ
06.
恋に生きる
07.
KISS
08.
空にしずめる物語
09.
Christmas Kiss
10.
昭和
デビュー20周年記念アルバムです。普通なら、これまでの活動の集大成のようなアルバムをつくるところですが、シンジは違います。この記念アルバムでは、他人の曲を大胆に使うという挑戦を行ってます。自ら作詞・作曲したのは「昭和」だけで、外の曲はすべて他の作曲家作詞家に発注。そのためかどうか、曲の内容も過激なものが多い気がします。「渚にて」は恋に身を滅ぼす男を歌い、「恋に生きる」も「全てを敵に回し、恋に生きる」男の曲。「最後のI LOVE YOU」は作詞が秋元康、作曲は三木たかし、というあ
る意味ものすごく過激な組み合わせとなっています。ここから、20周年を迎えても、さらに挑戦をつづけるシンジの姿勢がよくわかりますね。過去のシンジ像をぶちこわし、新たなスタートを切ろうというメッセージのこもった作品です。必聴。

ベスト・リクエスト 1991.11.25 ポリスター PSCC-1011
01. 走っておいで恋人よ
02.
今はもうだれも
03.
帰らざる日々
04.
ジョニーの子守唄
05.
秋止符
06.
チャンピオン
07.
いい日旅立ち
08.
22歳
09.
忘れていいの
10.
夜顔
11.
陽はまた昇る
12.
群青
13.
― すばる ―
14.
さらば青春の時
デビュー20周年記念に発売されたベスト盤です。CDのオビには「大ヒット曲のすべてを新録音、より良い音でお楽しみいただけます」とあり、CDだけにたしかにいい音。でも、アレンジは原曲とほぼ同じで原曲よりもチープ。何のために新録音したの? と、ちょっと理解に苦しみます。アレンジがほぼ同じだとすると、原曲のほうがいいに決まっています。その意味ではこのアルバムは「終わっています」。すべての曲が原曲をこえられないのだから、購入しても意味がありません。買ってはいけません。CDのオビにつられて知らずに買った人は、今頃泣いているでしょう。まるで曲名を見るとヒット曲ばっかり入っているので、「桑田佳佑作品集」というCDを買ってきたものの、聴いてみたらオルゴールの演奏だった、という当人にとっては悲劇(周りにしてみたら喜劇)のようです。しかも、単に駄作であるというだけならいいのですが、このアルバムの罪は重い……。なんと、このアルバムのバージョンが以後のベストアルバムに収録されるという悲劇を生んでいるのです。例えば「ラヴソング・ベスト」や「THE MAN」などに原曲を押しのけて使われています。これを「91年新録音の悪夢」と呼ばずして何と呼びましょう。まったくもって許されないアルバムです。

『ベスト・リクエスト』駄作説に関して→まずはこちらをご覧下さい。

三都物語 1992.9.2  ポリスター  PSCC-1072
01. 三都物語
02.
非婚宣言
03.
悲しい女
04.
涙あふれて
05.
Answer Phone
06.
ガラスの砂漠
07.
こころ前線
08.
歩きつづけて
09.
ノスタルジア
10.
最終フライト
大ヒット曲「三都物語」を含む1年半ぶりのオリジナルアルバム。「三都物語」は曲の売り上げの割には知名度が高いという、シンジの実力を如実に示した名曲です。いまだにJR西日本のイメージソングとして歌い継がれています。しかし、ほかの曲は残念ながら、「三都物語」には遠く及ばず、研ナオコに提供した「悲しい女」が目立つ程度。「ガラスの砂漠」「こころ前線」を挙げる向きもあるかもしれませんが、何か中途半端な印象はぬぐえません。「歩きつづけて」にしても同様。まあ、「三都物語」ほどの出来の曲を10曲揃えろ、というほうが無理なのでやむを得ませんね。このアルバムは『バサラ』にむけてのへの布石ととらえたいと思います。

サライ 1992.12.26 ポリスター  PSCC-1090
01. サライ(with 加山雄三)
02.
三都物語
03.
ダンディズム
04.
小さな肩に雨が降る
05.
青年の樹
06.
マイ・ボーイ
07.
いい日旅立ち
08.
浪漫鉄道「蹉跌篇」
09.
遠くで汽笛を聞きながら
10.
忘れないで
「サライ」を中心とするセレクションアルバム。旅立ちをテーマに10曲を集めています。「三都物語」「いい日旅立ち」の名曲は当然として、「小さな肩に雨が降る」「マイ・ボーイ」といった隠れた名曲が収録されているのがこのアルバムの特徴といえます。とくに、「小さな肩に雨が降る」は、もうちょっとヒットしてもよかったのに、惜しい曲ですよね。そして、「青年の樹」。パクリ疑惑にも負けず、しっかり収録されています。もっとも、1992年時点では「たいやき君」からのパクリとは誰も知らなかったのですが……(笑)。なお、加山雄三も同名のセレクションアルバムを出しており、両方を並べると、二人が見つめ合っている構図になります。

バサラ 1993.4.16  ポリスター PSCR-5001 
01. ―きざはし―
02.
バサラ
03.
オリエンタル・カフェ
04.
インディゴ・ブルー
05.
友達に変わる時
06.
シンガポール・スリング
07.
真夜中のミュージアム
08.
アゲインスト
09.
Four Seasons
10.
サライ(ソロ・ヴァージョン)
 ポリスター時代最後のアルバム。このアルバムの注目のひとつがジャケット。渋いシンジとお茶目なシンジの両方が楽しめます。さすが二面性のAB型。曲のほうも良曲がそろっています。まずは、なんといっても「階」「バサラ」。個人的には「バサラ」が好き。「愛することとは愛し続けること 信じることとは信じ続けること」の歌詞が泣かせますよね。さらりとアツイ詩を歌い上げるシンジに心底惚れてしまいます。そして、「オリエンタル・カフェ」、「インディゴ・ブルー」、「シンガポール・スリング」などもおすすめ。「アゲインスト」は、このアルバムの中では目立たない曲でしたが、全英オープンがらみでシングルカットされました佳曲。そして「サライ」。スケール、まとまりどこをとってもデュエットヴァージョンを断然上回ってます。
 ポリスター時代の最後を締めくくるにふさわしい傑作といえるでしょう。

ラヴソング・ベスト 1994.8.25  ポリスター PSCR-5324 
01. 三都物語
02.
悲しい女
03.
夏の二週間
04.
レストランの片隅で
05.
12番街のキャロル
06.
22歳
07.
いい日旅立ち
08.
ガラスの花
09.
― とげ ―
10.
忘れていいの
11.
夜顔
12.
秋のホテル
13.
Far Away
14.
サテンの薔薇
 シンジの得意路線のひとつ、女性のせつない恋心を歌った曲を集めたセレクションアルバムです。このアルバムの見所は、ジャケットです。かっこいい。そして選曲のほうもなかなかいけます。「夏の二週間」はここで聴き直すとなかなかいい曲ですよね。「秋のホテル」「悲しい女」などが収録されているのもそそられます。「サテンの薔薇」でしめるところも泣かせますね。まずまずのベスト盤なのではないでしょうか。
 あえて難点を言えば、「Far Away」は男性が主人公の曲なのだから、収録する必要はなかったのでは? テーマとしてはやや浮いている感のある「いい日旅立ち」も必要なかったように思います。最後に、「22歳」 「いい日旅立ち」「忘れていいの」「夜顔」 は1991年の「悪夢の新録音」なのでご注意下さいね(笑)。

谷村新司ベスト
― 旅コレクション ―
 PSCR-5371 95.5.25
01. いい日旅立ち
02.
三都物語
03.
遠くで汽笛を聞きながら
04.
こころ前線
05.
祗園祭
06.
サライ
07.
さらば青春の時
08.
― すばる ―
09.
ノーザンエクスプレス
10.
空にしずめる物語
11.
歩きつづけて
12.
幸福 ― しあわせ ―
13.
最終フライト
14.
浪漫鉄道「途上篇」
「旅」。シンジを語る上で欠くことのできないテーマの一つです。最近でも「心の駅」で、旅先で遠く離れた人を想う情景を歌っていますよね。このアルバムは、そんな
「旅」をテーマにした楽曲を集めたセレクションアルバムです。
 曲を見ていくと、第一印象として、「ノーザンエクスプレス」「幸福」といった最近はなかなか聞けない佳曲が収録されているのがうれしいところです。「空にしずめる物語」のような見過ごされがちな曲を収録しているところもいいですね。
 しかし、それにもまして特筆すべきは、私の大好きな「祗園祭」が収録されているところです。シンジの得意とする京都ネタの曲の中でも、最も美しい傑作だと思うのは私だけでしょうか。「祗園祭」を聴けるだけでもお得なアルバムです。(2000.7.8)

ITAN 1995.11.20 ポニーキャニオン PCCA-00869
01. I.T.A.N
02. Lion Heart
03. Road Heaven
04. Past Love
05. 君のそばにいる
06. Golden Years
07. Born Free
08. 刹那愛
09. Wings
10. 悲しみの器
 ポリスターとの契約切れの後約1年間、どのレコード会社とも契約せずに活動を続けた新司が、満を持して放った2年半ぶりのオリジナルアルバムです。全曲L.A.またはN.Y.録音だけあって、サウンド面におけるテンションの高さが目立ちます。特に「LION HEART」、「君のそばにいる」は、『昴』以来の新司独自の濃い世界にサウンド面での新たな味付けをした楽曲として高く評価されるべきでしょう。
 また、ジャッキー・チュンに提供した「刹那愛」、森進一に提供した「悲しみの器」などの曲も聴いてみる価値大。移籍後のアルバムとしての完成度はもっとも高いといえるでしょう。

生成(KI'NARI) ポニーキャニオン
01. 極東セレナーデ
02. ジャスミン
03. 29th バースデイ
04. トマト
05. ジュピター
06. ペルソナ
07. 12番街のキャロル
08. この空の下
09. 櫻守(アルバム・ヴァージョン)
10.
生成〜KI'NARI
 ポニーキャニオン移籍第2弾アルバム。ヒット曲(?)「櫻守」のアルバム・ヴァージョンを収録しています。バックバンド「HUMAN ZOO」とのコンビネーションが重視されており、基本的に軽井沢(多分)での合宿録音となっています。
 残念ながら『I・T・A・N』ほどの完成度は望むべくもないのですが、詩の印象が強い「29th Birthday」など、キャリアからくるレベルの高い曲はちりばめてあります。「トマト」などは、とても共感を呼べる(?)と思っているのは私だけでしょうか? どうやらアルバム『I・T・A・N』のセールスの伸び悩みが、予算に影響してしまったようです。

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