「『ベストリクエスト』駄作論」に関して


Written by 憲法学入門の管理人

「『ベストリクエスト』駄作論」に対して反響が寄せらたこともあり、ここでその経緯をもう一度おさらいしておこうと思いました。『ベストリクエスト』に関しての質問と回答の重複を避けるためにも、まずはこの文章を読んだ上で掲示板に書き込んで下さい。よろしくお願いします。
以下、掲載されている文章は掲示板の過去ログに依ったものです。左はご意見、そして右は管理人によるレスです。

(その1)たかさんからいただいたご意見とその回答 その1

***たかさんのご意見***

***その回答***

「ベストリクエスト」駄作論に対して...。 投稿者:たか  投稿日:02月02日(水)22時32分
54秒

 はじめまして。20歳の大学生です。
 ぼくの大学の友達の中には、残念なことに谷村さんのファンは誰一人としていないので、いつも寂しい思いをしています。もっともっと同世代の人と谷村さんの話で盛り上がりたい...と常日頃思っているのですが、結局コンサートにも一人で行く有様でして...。
 さて、「不思議の国のアリス」のアルバムレビュー、とても興味深く読ませて頂きました。確かに賛美するだけではなく、常に客観的な視点で物事を考察するのは、とても大切なことですね。
 そこで「悪夢の91年新録音」について、ちょっと私見があります。
 ぼくは基本的には新録音に賛成の立場をとります。それは昔の名曲たちが今の谷村さんの声で聴けるからです。
 ぼくは初めて「ベストリクエスト」を聞いたとき、とても興奮しました。
 「昴」「群青」「さらば青春の時」等々の名曲が今の谷村さんの歌声で聞けて、しかもアレンジの方も基本コンセプトはそのままで微妙に「いまふう」になってる...。ファンにとってこれほど嬉しいことはないと思います。
 あと、MDなどでオリジナルのベスト版を作る時のことを考えてみてください。
 ぼくは「ワン・アンド・オンリー」のTr.1の「昴」とTr.2の「ダンディズム」を聴いた時、はっきり言ってものすごい違和感を感じました。この2曲の間には10年間という時間の隔たりが有る為、歌い方や歌声が明らかに異なるからです。ところが、91年新録音「昴」次に「ダンディズム」を聴くとその違和感は見事に消えます。まるでコンサートで続けて歌っているようにも聞こえます。
 このように新録音を使った方が、オリジナルのベスト版もより一貫性のあるものが作れますし、いざ聴く時もなんだか安心して聴けるのではないでしょうか(なので97年の「Best of 〜」シリーズも大歓迎です)。
 以上の理由からぼくは新録音に賛成なのですが、如何でしょう。

 だらだらと長くなりすいませんでした。これからも更新作業、頑張って下さい!
それでは。

『ベスト・リクエスト』について 投稿者:管理人  投稿日:02月05日(土)16時46分01秒

たか 様

 書き込みありがとうございます。

 私もチンペイさんが大好きで、でも一緒に語り合える友達がいないので、ついにこのページを立ち上げたわけです。これからもこういう話ができればいいな、と思っています。

さて、『ベスト・リクエスト』についてです。

 たかさんの立場と私の立場との違いは、「新録音の是非」という点にあると思われますので、その点を中心に私見を述べさせていただきたいと思います。
 私は、新録音というのは一種の冒険であり、それを行う以上新録音には役割がある、そういう風に考えています。その役割とは、今まで聞き慣れたアレンジとは全く異なるアプローチで楽曲に迫り新たな像を示す、というものです。
では、この立場を採ったとき『ベスト・リクエスト』はどう評価されるかというと、これは既にレビューで述べました。ここで一口で言うなら、新たなアプローチを示せなかったのではないか、ということになります。
「まるでコンサートで続けて歌っているようだ」とのたかさんのご指摘にも頷ける部分はあります。しかしながら、それならばライブ盤を聴けばいいのではないか、との疑問が残るのです。
 ところで、ここでご注意いただきたいのは、私は新録音そのものには反対していないということです。たしかにこれまでのレビューでは新録音について否定的な見解をとり続けてきましたが、これは今まで取り上げてきたアルバムがそういうものであったというだけです。新たな楽曲像を示した新録音なら私も大絶賛します。そういう点では、『21世紀』はこれまでのあらゆる新録音のうちでも出色の出来ではないか、そう思っています。といいますのは、このアルバムには新たなアプローチや挑戦が随所に見られるからです。<三都物語>の新録音などは、歴史(谷村新司楽曲史)に残る傑作いっても過言ではないと思っております。『21世紀』については、たかさんと同じく大歓迎の立場です。『21世紀』のレビューは近日アップするつもりでいます。

 最後に、新録音を使った方が一貫性のあるものが作れるのではないかとのご指摘ですが、これはその通りだと思います。『21世紀』はその良い例です。ただ、「新録音の役割」という視点に立った時、『ベスト・リクエスト』に高い評価は与えられない、ということになります。

以上です。
 新録音にたいする私独自の立場もあり、たかさんへのきちんとした返答になっているかどうか、自信はありません。しかし、私のお答えできる範囲で全力でお答えしたつもりです。

それでは、何かございましたらまた書き込みの方をよろしくお願い申し上げます。


(その2)たかさんからいただいたご意見とその回答 その2

***たかさんのご意見***

***その回答***

ご返答、ありがとうございました。 投稿者:たか  投稿日:02月06日(日)00時45分50秒

 ご返答、ありがとうございました。とても丁寧にお答え下さって感動しています。ここまで真剣に谷村さんのことで話をして頂いたのは初めてなもので...。
 これからもよろしくお願いしますね(^_^)。

 さて、「ベスト・リクエスト」の私見について少し補足を...。
 管理人様は「新録音は冒険であり、そこにはなんらかの役割がなくてはならない」とお書きになりました。私も確かにそう思います。
 そこで「ベスト・リクエスト」が果たした役割について、私はこう考えます。
 「ベスト・リクエスト」のアレンジはオリジナルとコンセプトは同じですが、全く同じではありません。
 例えば「夜顔」。前奏のイメージがオリジナルとは微妙に異なります。「昴」についても2番目以降の間奏がオリジナルよりも数段かっこよくなっていますし、さらに「さらば青春の時」の間奏のトランペットに至っては「メロディが同じでも吹き方を変えるだけでこんなにも今風になるのか!」と驚かされました。基本コンセプトが同じだからこそ、微妙に変化した部分がより強調されて聴こえる。つまるところ、これが管理人様の仰る「聴きなれたアレンジとは異なる」ことにならないでしょうか?
 丁度「スタ―ウォ―ズ」が物語をそのままにリメイクしたのと同じように...。ぼくはこれと同じ効果を「ベスト・リクエスト」に見出しているのです。
 ちなみに「21世紀」については、あのアルバムに収録されている曲は「曲名が同じだけでまったくの別の曲」と捉えております。

 それと「ライブ盤を聴けばいい」というご指摘についてですが、確かにそうかも知れませんが、やはり音質という問題がありまして...。
 ぼくはライブCDよりもスタジオ録音の方が、遥かに音質の面で優れていると思います。
 そういう意味でもぼくにとって「ベスト・リクエスト」はありがたいアルバムなのです。

  以上がぼくの意見です。前回の書き込みと多少重複する部分もありますが、どうかご容赦下さい。
 ここまで読んで頂いてありがとうございました。

 長々と失礼しました。
 それでは。

たかさんへ 投稿者:管理人  投稿日:02月08日(火)09時13分55秒

 書き込みありがとうございます。私の方も、作品論を語れる興奮に身震いする思いです。こちらこそ、これからもよろしくお願いします。

 『ベスト・リクエスト』ですが、たかさんのご指摘にも一理ありますね。「基本コンセプトが同じだからこそ、微妙に変化した部分がより強調されて聴こえる。つまるところ、これが管理人様の仰る『聴きなれたアレンジとは異なる』ことにならないでしょうか?」

 なるほど確かにそうともいえますね。
 この立場に立てば、〈夜顔〉〈さらば青春の時〉などは名アレンジということになりますね。
 たしかに1曲ごとに綿密に評価していくと、〈さらば青春の時〉〈夜顔〉に良い評価を与えることが出来るかもしれません。〈22歳〉も歌唱に微妙な変化がみられ、そういう意味で楽しめますよね。
 ただ、私は「新たな楽曲像を示すような冒険」を重視したいと思います。それでレビューのような評価となったわけです。
 特に 、〈昴〉については、たかさんとは別の立場を採らざるを得ません。〈昴〉のオリジナルはこれを越えるというのは不可能というくらいの完成度である、というのが私の立場です。ベストリクエストの〈昴〉はオリジナルの圧倒的存在感には及ばない、そう考えています。
 この辺りに私とたかさんとの立場の分岐点があるということになるのでしょうか?
 でも、このように細かく考えていくと、『谷村新司論』の深まりが感じられ、ゾクゾクしてきますね。

 ところで、『21世紀』 ですが、「あのアルバムに収録されている曲は『曲名が同じだけでまったくの別の曲』と捉えております」とは思い切った評価ですね。すると、たかさんは、『21世紀』よりも『ベスト・リクエスト』派ということでしょうか?
 私は『21世紀』派です。レビューは近日アップしますので、ご評価くだされば幸いです。

 最後に、『ベスト・リクエスト』のレビューは変更しませんが、『ラバン』の時と同様に、別コーナーを設けて議論を分かりやすい形にまとめておくことにします。

 たか さんこれからもよろしくお願い申し上げます。
 たかさんのベスト・フェイバリット・アルバムなどもお聞かせ下さい。

 追伸 ― 呼び名ですが、「管理人様」などという勿体ぶった敬称はこの際やめましょう。敬称をつけていただけるのでしたら、「管理人さん」にしていただけると嬉しいです。


(その3)たかさんからいただいたご意見とその回答 その1

***たかさんのご意見***

***その回答***

管理人さんへ 投稿者:たか  投稿日:02月09日(水)01時17分50秒

 管理人さん(早速呼ばせて貰ってます(^^;)、またまた丁寧なレス、ありがとうございました。

 ところで「ベストリクエスト」に対する私見についてですが、もう殆ど語り尽くさせて頂きました(笑)。ぼくの下手くそな文章を長々と読んで頂き、とても感動しています。
 でもひとつだけ、「21世紀」のことでちょっと補足させてください。

 ぼくは決して「21世紀」を「ベストリクエト」の下には考えていません。ぼくが前回の書き込みで「まったく別の曲として捉えている」と書いたのは、ぼくは「21世紀」を新録音版としては考えていない、ということなんです。
 「21世紀」に収録されている曲は、一部の曲を除いてアレンジが大きく変更されています。「忘れていいの」「いい日旅立ち」「三都物語」etc...。どれもオリジナルの面影すらありません。
 つまりここまでアレンジが違えばもう別の曲である、という捉え方のほうが適切であるとぼくは思うのです。この辺が管理人さんとぼくとの「新録音」に対する考え方の違いではないでしょうか。
 さて、ここでひとつ誤解して頂きたくないことがあります。それは「21世紀」のアレンジが決して嫌いではない、ということです。ぼくはもともとスタジオ録音のアレンジよりライブのアレンジの方が(音質を抜きにすれば)好きなのですが、そういう意味でもぼくはこのアルバムが大好きなのです。
 「21世紀」のアレンジって、これまでのCDのアレンジに比べて非常にライブぽいと思いませんか(「チャンピオン」「狂った果実」「冬の稲妻」などなど)?
 谷村さんの歌声も益々若くなってきたように思いますし。

 そうそう、ぼくは谷村さんの歌声について「年を取る度に若くなっていく」という感想を持っています。例えば78年録音の「チャンピオン」と91年新録音の「チャンピオン」では、絶対に後者の方が若く聴こえます。これはその他の「ベストリクエスト」に収録されている全ての曲に言えることだと思います。しかも「秋止符」に関しては、谷村さんは「デッサン」「ベストリクエスト」と、今までキーを堀内バージョンよりも一音低いCmで歌っていたのですが、「21世紀」ではなんと堀内さんと同じ、一音高いDmで歌っていたのです。このことは「生成」収録の「この空の下」でも言えることです。まさに恐るべし!ですね。

 さて、ぼくの21世紀に対する誤解は解けたでしょうか。
  最後に、管理人さんの質問にある「お気に入りの一枚」ですが...。
 とても迷いましたが、これを挙げさせて頂きます。谷村さんのソロではありませんが「謀反」です。さすがアリス最後(正確には違いますが...)のアルバムだけあってパワー全快という感じで好きです。

 宜しければ「谷村声若返り論」(?)について、管理人さんなりの感想があればお聞かせください。

 それでは、失礼します。

「谷村新司声若返り論」について 投稿者:管理人  投稿日:02月13日(日)19時53分00秒

 たか 様

 書き込みありがとうございます。
 さて、早速ですが、「谷村新司声若返り論」について述べさせていただきます。

 たかさんの、声若返り論では2つの根拠が指摘されています。

(1)「チャンピオン」は91年録音の方が若く聞こえる
(2)『21世紀』における「秋止符」のキーが上がっている。

 結論から言いますと、(1)には若干の異論あり、(2)には賛成です。
 以下順に触れていきます。

(1)早速「チャンピオン」を聞き比べてみました。録音技術等の問題もありましょうが、たしかに『ベスト・リクエスト』の方が若く聞こえます。ご指摘の通りですね……
 と簡単に賛成してしまうとたかさんも物足りないでしょうから、ここは少し違った意見を述べさせていただきます。
 私は、これは「持ち味の変化」という風に捉えてみたいと思います。アリス時代におけるチンペイさんは、ベーヤンの声質との対照をはっきりさせるという意味と、シャンソンの影響であのような歌唱法を採用していたのではないか、と思います。そしてそれが活動停止後、声質を意識する必要がなくなったために変化し、今のような深みのある歌唱となったのではないか、そう考えてみました。ちょっと荒っぽいですが、いかがでしょうか。

(2)これも早速「秋止符」を聞き比べてみました。全くその通りですね。キーが上がっています。音域が広がっているのでしょうね。
 音域というものは、通常年を経るごとに狭くなっていくものです。ところが、チンペイさんはその逆を行っています。まさに「若返り」と呼ぶにふさわしいものです。このような例はまれだと思います。私の知る限りでは、90年代初頭の中島みゆきについて、音域が広がったという話を聞いたことがありますが、これくらいではないでしょうか。しかも、この頃の中島みゆきは、年齢的には現在のチンペイさんとは比較にならないくらい若い頃ですから、チンペイさんのすごさが分かろうというものです。
 やはり毎日の腹筋運動の成果でしょうか(Zieg会報によるとそうらしいです)。

 以上のような感想を持ちました。新録音曲のキーを点検して、より完璧に「若返り論」の検証を行うのも面白いかもしれませんね。
 実に鋭いご指摘で、大変勉強になりました。ありがとうございました。