「つむじ風」におけるティンパニの意味

By 管理人


はじめに

「つむじ風」といえば、「アリス6」の冒頭を飾る名曲です。この曲のイントロのティンパニ、実にカッコイイと思いませんか? 当時のミュージックシーンでティンパニをあんなに効果的に使用した曲ってないと思います。ところで、「このティンパニはなぜフィーチャーされているのか?」と考えたことはありませんか? 今回は、このことについて考えてみたいと思います。


1 「つむじ風」とは
言葉の定義から始めます。「つむじ風」とは一体なんでしょうか。

 まずは、広辞苑(第4版)を使ってひいてみましょう。

●竜巻(spout)〔気象〕
積乱雲の底からたれ下がる漏斗状の雲を伴った激しいうず巻。アメリカのトルネード(tornado)もその一種。積乱雲自体も直径一〇キロメートル前後の低気圧性の渦を伴いゆっくり回転しており竜巻低気圧とよばれる。竜巻とは別に、地面から吹き上げられたちり、または砂が、柱状になって旋回する、いわゆるつむじ風は塵(じん)旋風(dust whirl, sand whirl, dust devil)という

 つぎに、英和辞典を使ってひいみますと(研究者リーダーズプラスv2)

●tour・bil・lion, -bil・lon  つむじ風 たつまき; 《気体・液体の》渦巻; 渦を巻いて舞い上がる花火[のろし].

 わかったような分からないような感じなので、今度は。気象台のホームページを調べてみました。

 彦根気象台の「お天気一口メモ」です。

 昔、中国では、つむじ風等風向きが変化する強い風を「颶風(ぐふう)」と呼び、同様なものをアラブの船乗りは「tufan」、ヨーロッパでは「typhon」または「typhoon」 と呼んでいました。日本では、江戸時代の文献に熱帯低気圧を「颶風」と訳した例がありますが、 明治の初めには既に「タイフーン」「大風(たいふう)」という呼び方が有識者によって使われていたようです。 そして、明治の末頃から「颱風(たいふう)」という言葉が一般にも広く定着し、当用漢字制定後は「台風」と記述するようになりました。 その語源については、英語「typhoon」の音訳、台湾地方に起こる暴風を意味する等の説があります。
 
 どうやら風向きの変化する強い風のことのようですが、これでもどうもすっきりしません。それでさらに検索しますと、ようやくわかりやすいページを発見しました。
 
 「毎日小学生新聞」です。
 
 <ミニ知識(ちしき)>
◇つむじ風(かぜ)は小型(こがた)たつまきではない
 天気(てんき)のいい日(ひ)にグラウンドなどで砂(すな)や落(お)ち葉(ば)などを巻(ま)き上(あ)げて渦巻(うずま)きになったつむじ風(かぜ)が発生(はっせい)することがあります。しかし、これはたつまきの子(こ)どもではありません。発生(はっせい)する仕組(しく)みがまったくちがうのです。 暖(あたた)められた地面(じめん)の熱(ねつ)で地面近(じめんちか)くの空気(くうき)が暖(あたた)かくなって上昇気流(じょうしょうきりゅう)が発生(はっせい)し、それが渦巻(うずま)きの風(かぜ)になるのです。とはいっても、運動会用(うんどうかいよう)に立(た)てたテントを飛(と)ばしたりすることもあるので注意(ちゅうい)が必要(ひつよう)です。・

 ようやくわかったような気もしますが、どうも「つむじ風とは、〜〜の風である」というような定義ではないのがすっきりしないところです。

 そこでさらに調べてみますと、つぎのページを発見しました。

http://www.geocities.co.jp/Technopolis/4319/sirius39/tatsumaki.html

 これでかなりはっきりしたのではないでしょうか。空に雲があるかどうかは関係なく発生する旋風とのことでした。さらに付け加えると、アメリカでは、竜巻とつむじ風をかなり厳密に区別しているようですが、日本ではさほど区別していないとのことです。定義が難しいんですね。

 このほか、http://www.melma.com/mag/52/m00011552/a00000102.htmlでもつむじ風の話題に触れています。


2 さまざまな「つむじ風」
 一口に「つむじ風」といっても、さまざまな「つむじ風」があります。映画の世界をのぞいてみましょう。

 まず、フランス映画から。トリュフォー監督の名画「突然炎のごとく」の主題歌が「つむじ風」なんですね。曲の内容は全然違うようですが、少なくとも題名的には、どうやらシンジはここに取材しているように思います。「赤いつむじ風」が「炎」をイメージさせます。また「炎」も歌詞に出てきます。
 つぎに日本映画。渥美清さん主演「つむじ風」。恋愛喜劇映画だそうです。きっと軽妙な楽しい作品だったのでしょう。


3 「つむじ風」について
 本題からかけ離れてしまいました。ようやく本題です。長かった(笑)。「つむじ風」は、作詞・作曲谷村新司、編曲篠原信彦の手による楽曲です。曲の時間は3分42秒。「アリス6」の冒頭を飾り、「ALICE MEMORIAL 1976-1979」をはじめ、数々のベスト版に収録されてきました。力強い歌唱と濃厚な編曲が見事にマッチした名曲です。ちなみに篠原氏は、「帰らざる日々」の編曲も担当しており、アリスサウンドを支えた一人でした。

4 ティンパニの位置
 問題のティンパニですが、どこのフィーチャーされているかというと、冒頭です。このリズムセクションは、シンセサイザー(音色から言ってこの表現がぴったり)が登場するのに伴って、ドラムに切り替わり、そして、「駆けてゆけ〜」と入ります。以降ティンパニは登場しません。

5 なぜティンパニがフィーチャーされているのか?
 昔聞いたときは、「カッコイイ」これしか感じませんでした。しかし最近聞き直してみると、どうも「カッコイイ」だけでティンパニがフィーチャーされているとは思えなくなっているのです。結論からいえば、ティンパニは、つむじ風発生の予感を示しているのではないか、と思えるようになりました。これは、ドラムとシンセとの連関で考えてみると分かります。ティンパニの音がフェードアウトしていって、ドラム・シンセの登場。このサウンドは、つむじ風発生の仕組みを表現しているのです。
 では、毎日小学生新聞によるつむじ風発生の仕組み「暖められた地面の熱で地面近くの空気が暖かくなって上昇気流が発生し、それが渦巻きの風になるのです」(ひらがな省略)と重ね合わせてみましょう。
 
 ティンパニの乾いた音=(晴れた日、太陽によって)暖められた地面の熱で
 ドラム=地面近くの空気が暖かくなって
 ドラム+シンセ=上昇気流が発生し →つむじ風発生
 歌=いよいよアリス登場!
 
 見事に重ね合わせることができました! 「なぜティンパニがフィーチャーされているのか?」の問に、ティンパニはつむじ風発生の前兆を表現しているから、と答えることが出来ました。ここまで考えられているとは!篠原氏の才能に脱帽です。

おわりに ― 結論と今後の課題
  結論は以下の通りです。
 
 結論:ティンパニは、「つむじ風」を表現するために使用された。そして、暖められた地面の熱を表現している。
 
 したがって、ティンパニをフィーチャーしないとつむじ風が発生しないので、「つむじ風」演奏に際しては、ティンパニは絶対に必要である、ということになります。今後の課題としては、それぞれの曲のイントロは何を表現しているのか、との問を考えていけたらと思っています。

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