アリス アルバムレビュー
〜愛の光
Love Light in Flight(謎)
written by 香奈佳奈

アリス(1)  アリス・(7) 工事中
アリス(2) アリスヲ(8)
アリス。(3) アリスァ(9)─謀反─
アリス「(4) アリスィ(10)
アリス」(5) 0001
アリス、(6)  

アリス(1) 東芝EMI 発売日:1972.9.5
01. アリスの飛行船
02. 冬が終って
03. ティンカベル
04. 羊飼いの詩
05. 何も言わずに
06. 木枯らしの街
07. ブラウンおじさん
08.
ティー・タイム(ナレーション)
09. 好きじゃないってさ
10. 移っていく時の流れに
11. 明日への讃歌
 アリスの記念すべきデビューアルバム。いきなり「アリスの飛行船」のキラキラ攻撃にクラクラしてはいけません。この曲、なんとドラムはあの猪俣猛氏が担当! アルバムには他にもギターで桑名正博氏が加わっていたりと、意外と豪華なゲストです。そして、ショボショボのエレキギターがフューチャーされた「ティンカベル」、3拍子でウンフ〜ンな「ブラウンおじさん」、途中からちょっぴりハードになる「明日への讃歌」、「コーヒー」を入れてるのになぜか「“ティー”タイム」、しかもこれはおしゃべりだけでなぜ収録したのかが意味不明。でも、ライヴ盤では必ずトークを入れるという路線の先鞭を付ける形となったと解釈しておきましょう。総括としては、全体的にアメリカンな雰囲気とさわやかさを強調しており、何よりも重要なのは、これから先の苦難の日々が手に取るように分かる内容だったということですね(笑)。私はこのアルバムを聴いて、長いスカートと四角い人参が嫌いになりました(笑)。

アリス(2) 東芝EMI 発売日:1973.6.5
01. 愛の光
02. 帰り道
03. おまえ
04. 知らない街で
05. 白い夏
06. 誰もいない
07. 散りゆく花
08. そこにいる貴方
09. 無題
10. 雪
 前作の白とはうって変わったダークなアルバムジャケットが印象的。ハードな「愛の光」で幕を開けますが、ギターのイントロにたどり着くまで1分40秒近くもかかるのは、曲がカッコいいだけに残念。チンペイさんが当時つきあっていた女性に作った曲「おまえ」は、曲の完成度の低さからその後ふられたということが分かります(笑)。「知らない街で」では、曲調と相反するギターのワウワウが使われるものの、続く「白い夏」のキンちゃんのヴォーカルが一服の清涼剤となりなごみます。でも、「誰もいない」で使われている打楽器(おそらくコンガ)は思わず木魚ではないかと思ってしまうほどポクポクやってますし、最後の「雪」では、1分20秒付近の「結婚しよう」の前で弾いたフォークギターの弦がビビっている上、チンペイさんも演歌っぽい歌い方をしています(涙)。10曲中6曲がチンペイさんの作詞・作曲なので、前作よりもより「ハード」で「ダーク」な側面が強調されています。全体の路線はデビューアルバムを踏襲していますが、曲とアレンジとのバランスがイマイチ、というのが総括的なコメントです。
アリス。(3) 東芝EMI 発売日:1973.12.25
01. 青春時代
02. 愛しはじめて三ヶ月
03. 涙化粧
04. 走馬燈
05. 雨降りは大好き
06. かもめ
07. 星物語
08. 突然炎の如く
09. 地図にない町
10. 愛は二人で
11. 青春の影
 アルバム2作の売り上げでの失敗からか(笑)、今度は売れ線歌謡曲のなかにし礼と都倉俊一に曲を依頼し、「青春時代」が発売されました。当時はオリコンで46位、7万枚近くを売り上げるヒットとなりましたが、今となっては森田公一とトップギャランの曲の方しか認識されていません(笑)。「地図にない町」もこのコンビの作ですが、アレンジのせいもあってかなり歌謡曲っぽいですね。11曲中、6曲がメンバー以外の作品で占められています。中でもかまやつひろしの提供した「愛しはじめて三ヶ月」「愛は二人で」、そして渋谷毅作曲の「涙化粧」「突然炎の如く」はひどすぎ。なんでこんな曲を収録したのでしょうか? しかし、そんな中でもベーヤンの才能は光り始めています。「走馬燈」「星物語」の完成度は「ティンカベル」の頃とはえらい違いです。チンペイさんの曲は相変わらずダークです(笑)。四畳半フォークと売れ線歌謡曲にサウンドが傾いており、そのどれもがうまく調和していないというのが総括です。涙ちりぬるをわか、よたれそつね……って感じですね(笑)。

アリス「(4) 東芝EMI 発売日:
01. 黒い瞳の少女
02. 生きているから
03. 甘い夢
04. レンガ通り
05. 恋は風車のように
06. やさしさに包まれて
07. ポイント・アフターの夜
08. 人生の道
09. 想春賦
10. 太陽に背を向けて
 前作の失敗からか(失敗ばっかり)、本作はメンバーが全曲を書いています。ソングライターとしてのベーヤンの成長はめざましいもので、「黒い瞳の少女」、「恋は風車のように」は秀逸です。オールディーズな「ポイント・アフターな夜」、ブーギな「人生の道」なんかは、1970年代のロックンロール・リヴァイヴァルに乗ってハジけてます。カーペンターズっぽいイントロの「想春賦」もなかなかです。というのも、この曲のバックコーラスはあの「オフコース」で、高中正義さんもアコギで参加しています。チンペイさんの「シベリア悲話」は、冬のオホーツクの荒波(?)が効果的に使われているので、「群青」への布石ととらえておけるでしょう。デビューアルバムのアメリカン・サワヤカン・サウンドに近いのですが、アレンジと曲調が合っているものが増えてきました。クオリティの高さが、さらに『アリス」』で開花することとなるのです。

アリス」(5) 東芝EMI 発売日:
01. 今はもうだれも
02. 遠くで汽笛を聞きながら
03. 雪の音
04. あの日のままで
05. 僕の想うこと
06. 音の響き
07. もう二度と
08. 夏の終わりに
09. 指
10. 帰らざる日々
 アリスが解散前に出したオリジナル・スタジオアルバム9枚の中で、4枚がセールス的に大失敗だったことを考えると、アリスの歴史の半分は苦難の歴史といっていいかもしれません。そんな傷心状態を歌った(?)「今はもうだれも」で、ついにアリスはブレイクします。この曲を作ったのは佐竹俊郎という人で、関西で人気のあったフォークデュオ「ウッディ・ウー」名義でシングルを発売しています(リリースは1969年9月10日で、オリコン最高位は66位)。そして、ベーヤンとチンペイさんの両者のソングライターとしての才能が「遠くで汽笛を聞きながら」と「帰らざる日々」で開花します。「バイバイバイ……」と、アルバム最後の曲になっている配曲はご愛敬。なごみ系のキンちゃんの「僕の想うこと」もいいですよね。そして「もう二度と」も隠れた名曲。全体的にまとまりがでてきて、アメリカン・サワヤカン・サウンドは結果的に良い方向へ発展しました。上り調子のアリスには向かうところ敵なし、という感じです。

アリス、(6) 東芝EMI 発売日:
01. つむじ風
02. 冬の稲妻
03. 砂塵の彼方
04. センチメンタル・ブルース
05. 五年目の手紙
06. 血の絆
07. 涙の誓い
08. 街路樹は知っていた
09. ある日の午後
10. 何処へ
11.フィーネ
 ハードでラテン系へとジャンルの幅を広げた「つむじ風」、言うまでもないヒット曲「冬の稲妻」と一気に聴かせた後、「砂塵の彼方」でなごませます。ちょっと洒落た「センチメンタル・ブルース」はキンちゃんの作。「涙の誓い」では16ビートを導入、一瞬シャンソン系なのでチンペイさんの曲かと思う「街路樹は知っていた」は、ベーヤンの作曲(バンジョウが使われてます)。サビで「あ〜あ〜」が使われている「何処へ」も、ベーヤンの作曲でした。このアルバムではベーヤンの才能が見事に発揮されています。編曲の石川鷹彦氏は「チャンピオン」等でも大活躍。サウンドにも磨きがかかってきました。そして更に次作のアルバムでアリスは頂点に立つことになります。

アリス・(7) 東芝EMI 発売日:
01. Wild Wind─野生の疾風─
02. 12°30'
03. 夢去りし街角
04. 未青年
05. ゴールは見えない
06. 永遠に捧ぐ
07. チャンピオン
08. 秋止符
09. ルート・サンシャイン
10. 緑をかすめて
11. 美しき絆
-ハンド・イン・ハンド-
Under Construction

アリスヲ(8) ポリスター 発売日:
01. ラ・カルナバル
02. 自分白書(My Statement)
03. 葡萄の実
04. それぞれの秋
05. 夏の日に
06. メシア(救世主)
07. 狂った果実
08. 黄色いかもめ
09. 漂流者たち
 ペガサスの水彩画(?)のジャケットも美しい第8弾。当然ながらオリコンチャート宸Pを獲得。そんなチャートでの華々しい活躍とは対照的に、このアルバムはアリスのオリジナルアルバム10枚の中で最も地味です。
 ここで、1曲目「ラ・カルナバル」はサンバだし、ホイッスルが入っているところからも矢神純子さんの影響もあり(?)、派手じゃないかとの意見もあるでしょうが、「愛の終わりのサンバ」という詩が示すように、どちらかというと夏の終わりを意識したような曲調であり、歌唱であるように思います。全体的には秋から冬を意識した曲が多く、それが全体の雰囲気を決定づけてます。Aメロがちょっと「神田川」っぽい「それぞれの秋」はその典型で、「葡萄の実」も同様。
 このアルバムでもベーヤンの才能が光っています。シングル「狂った果実」が必聴であることは言うまでもありませんが、ここでは「自分白書」をオススメしたいですね。「こんな大人になるなんて」などというシンジお得意の重い歌詞に、軽めではあるが軽すぎないメロディをさりげなくのせるという芸当はなかなか出来るものではありません。歌詞とメロディが美しく調和し、主人公の哀しみが実によく表現された名曲になったと思うのは私だけでしょうか?

アリスァ(9)─謀反─ ポリスター 発売日:
01. Welcome
02. Libra
03. 荒ぶる魂
(Soul on Burning Ice)
04. Silent Man-静かなる男-
05. Moon Shadow
06. ハドソン河
07. マリー・ダーリン
08. I.C.World
09. Cat in the Rain
10. エスピオナージ
11. 風は風
 「謀反」には二つの意味があります。ひとつは、ファンに対して「活動停止」という謀反をおこしたという意味での「謀反」、もうひとつは、サウンド面でこれまでとうってかわったハードな音づくりをしたという意味での「謀反」です。これらのことから、このアルバムは、「謀反」をテーマとしたアリス唯一のコンセプトアルバムであると考えてもいいのではないでしょうか。ジャケットも、本当に謀反を起こしそうなあやしい3人組、という感じですし(笑)。
 さて、曲のほうは、ロックを意識した音づくりにあわせた力作のオン・パレード。アルバム冒頭を飾る「Libra」「荒ぶる魂」のシンジ・ベーヤンの個性のぶつかり合いはまさにアリスというグループを象徴していて、聴き逃せません。同じことは「SILENT MAN」「MOON SADOW」についてもいえますね。その中で、キンちゃんの「CAT IN THE RAIN」が渋く光り、大曲「風は風」は大団円にふさわしい作りになっています。最後と言うことも意識したのか、シングル「エスピオナージ」が目立たないくらい1曲1曲が本当に充実しています。
 全体としては、サウンド面での冒険が功を奏し、3人の個性を十二分に引き出すことに成功した傑作であるといえましょう。

アリスィ(10) ポリスター 発売日:1987.
01. さよならD.J.
02. BURAI
03. アガサ
04. 平凡
05. テーブルという名の海
06. 4月の魚
07. 穏やかな月
08. 心の場所
09. 19の時
10. セントエルモスの火
 記念すべきアリス再結成盤。87年当時、シンジは「昴」「22歳」のメガヒットを飛ばしソロでも確固たる地位を築き、ケインズでコケたベーヤンも「愛しき日々」により復活。そのためか、1曲1曲に余裕を感じます。
 このアルバムの特徴は、ベーヤン5曲、キンチャン4曲、シンジ1曲という作曲の割り振りです。このことを頭に入れて聴くと、作詞がすべてシンジなのでシンジ色が強いと思われがちですが、実は、ベーヤンのカラーの強いアルバムであることがわかります。「さよならD.J.」、シングル「BURAI」、後にシングルカットされた「平凡」、どれも粒ぞろいの佳作ですね。さすがメロディメーカー。また、キンチャンの実力にも驚かされます。「アガサ」は「BURAI」よりも完成度が高いし、「テーブルという名の海」は詩と曲とが見事に調和した名曲。「4月の魚」もシングルになってもいいくらいの出来で聴き逃せません。どれもメロディラインが美しい。総括としては、1曲1曲よく見ると実はメロディアスなアルバムという「意外な結論」を導きだそうと思うのですがどうでしょう?
 最後に、個人的には「心の場所」が一番好きです。
0001 Zetima EPCE-5104 発売日:2001.7.11
01. 散りゆく花

02. 夢去りし街角

03. ライトハウス

04. 冬の稲妻

05. ジョニーの子守唄

06. 涙の誓い

07. Love Songを忘れない

08. 秋止符

09. テーブルという名の海

10. 何処へ

11. 狂った果実

12. 帰らざる日々

13. 遠くで汽笛を聞きながら

14. チャンピオン
 ついに発売された14年ぶりのニューアルバム。オリコンチャートでは28位と健在ぶりを見せました。また20年ぶりのツアーも、噂では武道館が30分でソールドアウトしたとのこと。みんなアリスを「待っていた」のです。さて、内容は、オリジナルが2曲とセルフカバー12曲の14曲。「今のアリスをてらいなく表現する」というコンセプトがしぶく、これがこのアルバムをすばらしいものにしていると思います。詳細は全曲レビューで見ていただくこととして、ここでは全体を聴き通しての印象を述べたいと思います。
 まずはアレンジから。このアルバムで最も特徴的なのは、セルフカバー12曲中、シングルとして発売された9曲がオリジナルとほぼ同じアレンジを採用しているという点です。こういった試みがJ.POP史上行われたことがあるのかどうか、寡聞にして知りませんが、おそらく初めてのことではないでしょうか。あったとしても、オリジナルと同じ楽器音をここまで再現できているアルバムはないでしょう。ここまでオリジナルが再現されていると、聞く側は無条件で感動してしまいます。そういう意味で、「徹底的にオリジナルにこだわる」というコンセプトは成功したといえます。ただし、これによって新たな楽曲像を提示することに成功できているかどうかは、1曲1曲で評価が分かれてくると思います。私としては、成功したといえるのは「夢去りし街角」「冬の稲妻」「ジョニーの子守唄」です。特に「夢去りし街角」のオープニングのティンパニ(?)・ハーモニカはすごすぎ。あのハーモニカだけで涙が止まらない人もいるかもしれません。他方、失敗しているのは「涙の誓い」「チャンピオン」です。「涙の誓い」は、収録しなければならない理由がわかりません。「チャンピオン」は、「君は出てゆく〜」の後のエレキギター。なんであんなひずんだ音にしなければならないのでしょうか。「チャンピオン」に新しいアレンジを加えることがいかに困難かが浮き彫りになるという結果になってしまいました。
 次に、歌唱の方を見てみたいと思います。全体としては、今のアリスをてらいなく見せるというコンセプトが貫かれていて、きわめて好感の持てる歌唱であったと思います。さすがアリス、といった感じです。
 しかし、これで終わるのもなんですから、次の3点から検証してみたいと思います。1キー、2ベーヤンの演歌臭、3シンジの歌唱です。

 1 キー:一番気になったのは「散りゆく花」でした。シンジの低音はくぐもった感じで辛そうでした。オリジナルと聴き比べてみると、ベーヤンのキーはかなりきてますね。でもこれでいいのです。今のアリスがわかるからです。「今のアリス」というキーワードが分かると、キーが高いとか低いとかはあまり気にならなくなりました。
 2 ベーヤンの演歌臭さ(笑):アリスファンが最も心配したのがこれでしょう。演歌の世界で大成功を収めたことは喜ばしいけど、アリスであの歌い方をされてはたまらない、みんなそう思っていたに違いありません。しかし、ベーヤンはほとんどの曲で見事にプロの仕事をやってのけました。「散りゆく花」「夢去りし街角」「冬の稲妻」「ジョニーの子守唄」・・・アリス時代と変わらぬ歌唱を見せてくれました。さすがです。ただ、「秋止符」「遠くで汽笛を聞きながら」では「やってしまいました」。かなり現在の歌い方が入ってしまいました。これは、べーやんが現在でもこの2曲を大切に歌い続けているという事情が影響しているように思います。歌い込んでいるので修正不可能なのでしょう。全体としては、ベーヤンの歌唱はこれでよかったと言えるでしょう。
 3 シンジの歌唱:あの頃のシンジは、もっとパワフルでした。現在のシンジは、技術・表現力ともあの頃より勝っていると思われます。ただし、パワーは確実に減少している。そのあたりをどう乗り越えるかがこのアルバムでの課題であったと思います。シンジはこの課題を、「今のアリスをてらいなく表現する」というこのアルバムのコンセプトに忠実であることで見事にクリアしました。さすがです。ただ「チャンピオン」の「おお神よ!」の部分は普通に歌って欲しかった……。
 
 以上ですが、全体的に見ると、やっぱりこのアルバムは名盤です。10000回以上聴いてもあきないことでしょう。

Home不思議の国のアリス掲示板E-MailLinks